寺田町

もう一月ほどたってしまいましたが、ライブ報告を。

 

寺田町とうちの夫・水野たかしは古い付き合い、名古屋のライブハウスで、水野は寺田町のオーディションに立ち会ったという。40年近く経つのだろうか。時は流れ、何故だかうちにあった寺田町の「SONG BOOK」というCDを、何気なくかけた私は、魅せられてしまった。独特な歌いまわし、ハスキーな声で紡がれていく言葉は、キラッ、キラッと輝く。ふっと息を抜きたい時、寺田町のCDを聞くと落ち着いた。それは長い間、静かに続いてきた私のブーム。もう10年くらい前になるか、西荻ではるばる亭という飲み屋をやっていた時も、密かに「SONG BOOK」をかけていたっけ。炎の雫でも、たまにかけたりしている。

 

そして今年、縁が繋がって、炎の雫でライブをやってもらうことになった。私は、本当に楽しみにしていた。8月29日、私は別の仕事でトラブルがあってちょっと遅くなり、リハに立ち会うことはできなかった。だからぶっつけ本番。

 

寺田町がギターを奏で歌いだした瞬間に、世界が変わった。なんだか見えない乗り物に乗って、異空間に連れ去られたようだった。そこはどこか懐かしい場所、でも見たことがないようなところ、ずっと昔みたいな、はるかな未来のような、不思議な感じのするところ。迎えてくれたのは、優しくもの哀しいギターとバイオリンの響き。私はその世界に身をゆだねる。曲によって、風景は変わっていく。バイオリンとギターのやり取り。穏やかな曲には、包み込むように、激しい曲には情熱をあおるように、まさに生の音・生の思いの交感。寺田町の声の力、歌の力の確かさと強さがダイレクトに届く。彼が吟遊詩人と呼ばれる訳を、私は体全体で納得する。彼の呼吸までも感じられる距離、何という素敵なライブだろうか。凄い!表現するというのは、こういうことなんだ。

寺田町の世界に浸り、彼らの奏でる音に翻弄される心地よい時間、あっという間の2時間余だった。

失礼な言い方かもしれないけれど、本当に上質な出し物を、ありがとうございました。

 

 

ライブの中で歌われ、心に残った「割れた爪、荒れた指」という曲が入った「COYOTE」というアルバムを買った。今、私は、繰り返しそれを聞いている。

私の静かなブームは、まだまだ続くだろう。(佳)